社会・政治系の読書記録

院生の個人的な読書記録です。専門外のものばかり読むこともあって、全体的にかなり拙いです。

河野哲也『<心>はからだの外にある』

著者の河野哲也氏は、心の問題を専門に取り扱っている哲学者の方です。前回紹介した

長谷川眞理子・山岸俊男『きずなと思いやりが日本をダメにする』に続いて、「心でっかち」批判あるいは「心理主義」批判の一冊です。より具体的に言えば、デカルトに端を発する現代の心理主義的な風潮に対して、ギブソン生態学的心理学を対置して、心理主義的な風潮を批判します。そして、パーソナリティや個人の内面について、新たな(というか本来的な)意味を提示してくれる書です。

 

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長谷川眞理子・山岸俊男『きずなと思いやりが日本をダメにする』

本書は、行動生態学・進化生物学者の長谷川眞理子氏と、社会心理学者の山岸俊男氏との対談本です。はじめはタイトルにぎょっとさせられたのですが、山岸氏の著作は以前読んだ『信頼の構造』が非常に面白かったことを記憶していたので、とりあえず購入してみました。内容は非常に面白かったです。なぜ人間は社会を作るのか、社会はどのような特徴を持つのか、そして社会を変えるにはどのようなアプローチすべきかについて、非常に説得的な議論が展開されています。特に、現状の描写に留まらず、人間という種や社会の形成の契機といった観点から、きちんとメカニズムが提示されている点が面白い。以下個人的に重要だと思った4つの点について記録します。

 

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稲葉振一郎『政治の理論』

以前記録した『社会学入門』に続けて、今回も稲葉振一郎氏の著作について記録します。稲葉氏の書かれたものは面白いですね。他の著作も読んでみたくなりました。さて、本書は当然政治理論についての著作なのですが、特に「政治」という言葉の定義について考えまくったと言えばいいでしょうか、特にアレントフーコーの議論を参考にしつつ、規範理論というよりは、そもそも政治って何なのか、という点についての論考です。以下、政治の定義に関する議論の要点のみ記録しました。

 

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小室直樹・山本七平『日本教の社会学』

本書は、社会科学のあらゆる分野に精通する知の巨人小室直樹と、『空気の研究』で知られる評論家山本七平との対談本です。小室氏はかつて何かの本で「山本七平という人は、博覧多才というわけではないが、面白いアイデアを出す」といった趣旨のことを仰っておられた・・・ような記憶があります。そうした発想力の山本を、社会科学を包括的に学んだ小室が学問的な知識でサポートするような形で議論が進んでいきます。

 

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稲葉振一郎『社会学入門』

稲葉氏の著作は今回初めて読みました。この方はどういう方なのでしょうか、よくわかりません。というのは、本書はタイトル通り社会学の入門書なわけですが、『経済学という教養』、『「資本」論』といった経済学系の著作もあり、また先月には『政治の理論』という政治学系の本を上梓されています。この『政治の理論』のあとがきを見ると、著者自身にも経済学・社会学・政治学のそれぞれの分野で入門書を著したいという野心があったとのことですから、意図してこのように多様な分野を扱っておられるわけです。社会学部を卒業しておられながら、大学院は経済学研究科、専攻は社会倫理学・・・。あれこれ多様な分野に興味だけはある筆者から見ると、ものすごく興味をそそられる方です。

 

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中沢新一『対称性人類学』

初の記事ですが、このブログ自体が僕の個人的な読書の記録とでも言うべきものですので、特にこれ以上ブログの趣旨や方針等は説明せず、早速本の記録を記します。
 
中沢新一氏の『対称性人類学』ですが、めちゃくちゃ面白かったです。なんというか、自分の中でバラバラになっていたものが、1つにまとめあげられていくのを感じました。なお、本書は筆者の専門分野とは程遠い領域について議論しており、こういう話に関して筆者はずぶの素人です。おそらく内容の理解にもかなり誤謬がありますので、以下はそれを念頭に置いて読んでいただければと思います。